秀808の平凡日誌

第四拾参話 追撃

名も無い崩れた塔の紅龍の個室で、『ビホルダー』というモンスターから常時送られてくるプラトン街道で起こっている戦闘の様子を映し出していたモニターの中で、一機の人型の『GENOCIDE』が仰向けに倒れながら大爆発を引き起こした。

 感情を感じさせない表情で、モニターを見ながら座っていた一人の少年が、無機質な声で告げる。

「『GENOCIDE』二号機、沈黙」

「何…?」

 今、モニターの中で散っていった『GENOCIDE』に乗っていたのはセルフォルスだ。彼には特に強力な強化を施しておいたというのに、ヤツは何をしているのだ?

 だが、更に紅龍に衝撃的な報告が告げられる。

「更に、こちらに接近してくる敵影一、今の『GENOCIDE』二号機を撃墜した敵のようです」

「よし、近くの『ビホルダー』に監視させろ」

 しばらくして、正面のモニターにその容姿が映し出される。漆黒の鎧に、一対の巨大な剣と盾、漆黒の翼を羽ばたかせて飛ぶその姿が、ハイ・エンド。コロシアムで倒された黒龍の姿と重なった。

 そいつはまっすぐに、名も無い崩れた搭へと向かってきているようだった。

 紅龍は内心、歯噛みする。

 ―――――次から次へと、面倒事ばかり!

 紅龍は指にはめている指輪に向かって怒鳴り散らす。

「西側より敵が一人接近している、お前達で始末しろ!」

 指輪に向かって怒鳴った後、背後のドアが開き、祖龍が入ってきた。

「ゼグラム…ナカナカ忙ガシソウデハナイカ」

 いきなり入ってきた祖龍に多少驚きながらも、落ち着いた態度で紅龍は言葉を返す。

「全くです、祖龍様。人間達はずる賢いだけでなく、蛇のように執念深いようです」

「ホウ………ソノ人間ノ事ナノダガ…」

 いつもの柔和な言葉遣いから突如、殺意にも似た威圧感を放ちながら祖龍は言う。

「貴様ニ聞キタイ事ガアルノダガ…来テモラエルカナ?ゼグラム」

「…承知しました。ルーツ様」

 紅龍も何を聞かれるのか悟ったのか、反論することなく祖龍と一緒に、名も無い崩れた塔の最上階へと消えていった。







 名も無い崩れた塔へ単独、向かうランディエフの先に見える焦茶色の斜面が分かれ、その下から姿を現したモノが太陽光を受け、巨大な3つの影を落とす。

 それらの姿を認めたランディエフは息をのんだ。

「あれは………」

 砂上を滑りながら向かってくる3機は、ネビスが乗っていたのと同じあの巨大兵器だ。3機は機体上部のエネルギー砲を放ちながら、ランディエフに迫る。

「…無駄というのが、わからないようだな」

 ランディエフは放たれた熱線を飛び上がってかわし、眼下に接近する黒く禍々しい機体に向かって舞い降りる。

 放たれる熱線をかわしながら一気に足元に飛び込むと、鳥のように折れ曲がった脚部の関節部を狙ってすれ違い様に剣を振るい、離れた。

 脚部を切られた一機がバランスを崩して転倒し、砂上にその巨大な機体が倒れこむ。ランディエフは一気に接近すると、その倒れこんだ一機のコックピットに長剣を突き刺し、抜き取る。

 抜いた剣から赤い雫が零れ落ちるが気にしない。自分にしてやれるのは、彼等を楽に逝かせてやれることだけだ。

 止めを刺した一機から離れようとした刹那、人型に変形していた他の2機が、胸に三つならんだ砲口から一斉にビームを放った。ランディエフは反射的に盾に身を隠す。

 ―――こいつら、仲間もおかまい無しか? そう認識したランディエフの心に、さらに怒りと憤りが募る。

 熱流が収まると、まず目の前の一機に向かって一気に接近する。ランディエフの接近を阻むように、巨大な機体の頭部と腕部からビームが放たれる。が、その攻撃はランディエフに掠りもしない。

 ランディエフはその巨大兵器の股に長剣を突き刺して上昇し、巨大な機体を一気に斬り上げる。斬られた装甲の隙間から炎が噴き上げ、自重に耐えられずそのまま倒れこんだ。

 残った一機が怖気づいたかのように、近づけさせまいと後退しながらリフレクターを出力する。

 だがランディエフはその逆をつき、後退しながら長剣を投げつけた。

 長剣は唸りを上げながら敵の巨体に襲い掛かる。持ち主の手元を離れた剣が装甲を切り裂き、次の瞬間、巨体を貫通して背後へ突き抜けた。

 孤を描きながら戻ってきた剣を掴み取り、何事もなかったかのように『名も無い崩れた塔』へ向かった。
 


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